Column

コラム

先人達の足跡

 日々の臨床の中で、「口腔と全身とは、こん。なふうに関連しているのか」というようなことを見出しますと、「いつか、このことをデータ化しよう」「誰にでも、理解あるいは納得してもらえる表現にしてみたい」と思うのですが、このような論文書きに対する欲求は一体どこから来るのか、私白身にもよくは分からないまま毎年学会発表を重ね、早くも数年が経ちました。

 

 心に暖めてはいるものの、なかなか表現のアイデアが思い浮かばないテーマもあれば、アイデアぱあってもデータ化するための計測機器が、一開業医には手の届かない高嶺の花である場合もあります。

 

 今回の論文のテーマは、早くから暖めていたもので、データ化するためのアイデアもありましたが、検出したいデータがデリケートなために、これまで使用してきた計測機器では、説得力のあるデータを得られませんでした。残念に思っている時に、タイミングよく“フット・スキャン”という、歩いている時の足の裏にかかる圧力変化を刻々と記録できる計測機器をモンテシステムという会社からお借りすることができました。

 

 論文の内容は、図をご覧いただきますように、“歯を咬み合わせた時、奥歯それぞれのどの部位で咬み合うようにするかで、歩く時のバランスが変わりますよ”ということです。専門的には、“臼歯部咬合パターンは、歩行時の足底圧バランスに影響力を持つ咬合の要素である”ということになります。

 

 細かい話で恐縮ですが、私たち歯科医師は、歯にかぶせものをする時、あるいは詰め物をする時、義歯を作る時、咬み合わせを調整する時……、要するに四六時中、上の歯と下の歯の接触状態について、強さと同時に場所が適切であるかどうかの判断をしています。ところが、“どことどこを咬み合うようにすると、体のどこにどのような影響が出るのがという点に関しての知見は少なく、基本的な問題であるにもかかわらず、明確な根拠に支えられているわけではありません。したがって、接触させるべきと考えられている部位は、学派によって一様ではありません。

 

 このような状況にあって、上下の歯の接触部位か、全身の力学システムに影響を与えていることを提示しその内容を検証した今回の論文は、広く日常の臨床にかかかる、実際的な価値のあるものと自負しています。

 

 発表原稿を準備するにあたって、歩行解析に関する諭文集を本棚から取り出して調べ物をしました。そこには、現在のような表現力豊かな計測機器のなかった時代に、何とかして歩行を解析しようとした研究者達の創意工夫の成果が、さまざまなデータとして記されています。先人達の足跡に込められた情熱に触れて、目前に迫った講演発表を魅力あるものにするために、もうひと工夫してみようとパソコンに向かう日々です。

 

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