Column

コラム

お尻で歩く

“イヌがヒトを咬んでも記事にはならないが、ヒトがイヌを咬んだら記事になる”というお話を何かで読んだことがあります。それならば、“足で歩いでも記事にはならないが、お尻で歩いたら記事になろうか”というものです。

 

咬み合わせと歩行の関連性を解析的にみる習慣がついてから、私は、足以前の問題として、お尻を何とかする必要があるのではないかと感じるようになりました。“何とかする”といいますと、たいへん抽象的ですが、要するに、モモの付け根辺りで横方向に広がって、触れるとふわふわとして張りの無くなってしまったお尻の筋肉の活性を、どうやって取り戻させるかということです。

今あなたが、もし座っていらっしゃるなら、ちょっと立って、気を付けの姿勢をして頂きます。お尻の脇に手の平を触れたら、その手をちょっと後ろに回します。それから、お尻の筋肉をきゅっと縮めてみましょう。その時、手の平の中に、大きな筋肉が引き締まる、ダイナミックな動きが感じられなかったら……。

 

サルとヒトとの類似と相違を論ずる際のポイントは、直立二足歩行、脳の働き、手の発達というのが代表的です。そういう分類でみると、お尻というテーマは、直立二足歩行の項目に仕分けされます。サルも、二足歩行はいたしますが、ヒトの直立二足歩行とサルの二足歩行の解析には、たいへん大きな違いが見られます(「サルとヒト」木村賛,サイエンス社)。その違いを作る原因のひとつは、大殿筋の発達の程度の違いにあります。

 

大殿筋というのは、私たちのお尻の膨らみをつくっている大きな筋肉で、サルでは発達していません。この筋肉は、股関節を真っ直ぐ伸ばすのに必要な筋肉です。ですから、大殿筋が発達していないサルの歩行においては、股関節が曲がったままで、膝も曲がったままいつも体の前にあります。しかし、歩行解析において、“大殿筋がほど良く引き締まって、お尻がキュートであるか否かが、直立二足歩行のダイナミズムにかかわる重要なポイントである”というような記載があるのを見かけません。その理由は、お尻を構成する大殿筋や中殿筋(お尻の脇のへこみ)は、主に骨盤の安定との関係、つまり立っていることとの関係で扱われるからです。いざ歩行ということになると、足の筋肉、中でも、足の蹴りだしの際に活躍する、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)の活性などが、よくとりあげられます。

 

しかし、患者さんの歩行を見続けて思うのは、“安定した正しい直立二足歩行のためには、実は、まず正しく立っていられることが、大前提”ということです。しかも、“片足で安定して立っていられることが、歩行の安定にとって、不可欠の条件”のように思われます。

 

なぜなら、私たちの歩行のサイクルの中には、一脚支持期といって、片方の足だけで体を支えなければならない期間があるからです。後ろになった方の足で蹴り出して、かかとのあがっている期間が、これにあたります。この時、中殿筋が、不安定になる骨盤を支えます。それと同時に、大殿筋が太ももを後ろに引きよせ、体全体を力強く後ろから前へと運びます。重心移動といいますが、体を前に運ぶというような、おおまかな作業は、“繊細ではないが、力の強いお尻の筋肉”に大方担当してもらう、お尻で歩く、という訳です。足も手も、先に行くほど筋肉が小さくて繊細になる傾向があります。歩行に際し、細やかなコントロールに活躍できる筋肉に、体を支えたり、体重を移動させる仕事をさせるのは、非効率的なばかりでなく、それらの筋肉に過度な負担を強いることになるのです。

 

正しく歩くことの困難な方は、まず、正しく立つのが苦手です。その時の特徴のひとつが、お尻の筋肉が、ふんわりとして休めのままの状態ということです。さて、もう一度、お尻に手を当てて、立ってみて下さい。片方のお膝を曲げて、もう片方の足で体を支えてみましょう。ふらつかず、スッキリと立てましたか。

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