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コラム

捻れと進化 捻れたと考えるべきか緩んだと考えるべきか? それが問題

「生きるべきか死すべきか、それが問題だ」というのは、シェークスピアの戯曲“ハムレット”の中の有名な台詞ですが、咬み合わせの狂いによって歪んだ方のお体を診ながら、私は、舞台の裾から裾を行ったり来たりしつつこの台詞をはくハムレットよろしく、その方の身体に起こった変容は「捻れたと考えるべきか 緩んだ結果と考えるべきか?」と、ある時期、真剣に考えておりました。

 

咬み合わせのずれた方のお体を拝見していると、首が曲がっていたり、肩や腰骨の左右の位置に、上下的、前後的な差の見られることがよくあります。その形態から受ける印象は“捻れている”という表現が感覚的にぴったりです。観察をはじめた当初は、“咬み合わせが狂うと体のバランスが崩れて、本来左右均等でまっすぐであった体が、手ぬぐいをきつく絞った時のように捻れて曲がってしまうのだろう”と考えていました。背骨のS状湾曲のゆがみも、捻れの強まりの表れと考えていました。それならば治療目標は、身体にこもった捻れを開放することになる訳ですが、実際に治療をしてみると、どうもそうではないらしい。なぜなら、歩行を観察しそれを整えていく過程は、関節を捻る働きをする筋肉の“緩み”を低周波や鍼などで調整して、“捻れとその開放”という関節本来のリズムを取り戻すことだったからです。

 

図Ⅰをご覧下さい。口から肛門までの一本の管が、進化の過程で次第に捻れていく様子が、模式的に表されています。魚類から両生類、爬虫類を経て哺乳類へと進化の程度が進むにしたがい、胃や腸の部分に捻れによる変容が起こっています。脊椎動物が、進化に伴う変化を“入れ子”のように内部にため込んで対処してきたようすがうかがわれます。進化の階段を上り詰めた私たちヒトの身体の内部に、他の動物よりも強く複雑な捻れがこもっていることは言うまでもありません。

図Ⅱには、腸管の捻れの強まりに対応させて、脊柱の進化の過程を並べてみました。これを見ると、脊柱の形態は、腸管の捻れと足並みをそろえて湾曲の数を増しています。魚類が陸に上がった時から始まった脊柱の湾曲の形成は、重力の作用と無縁ではありません。水中で生活する環境から比べると6倍といわれる重力がかかる中で、より効率の良い移動様式を獲得するごとに、脊柱はその湾曲の数を増してきました。脊柱の変容には、並行して四肢の変化も伴っています。四肢の骨格は関節部を中心に捻れて、その骨を動かす筋肉もより効率の良い移動ができるよう、互いに拮抗する筋群が骨にまといつくように捻れて付着しています。その結果、図に見られるように、両生類より爬虫類の方が、さらに哺乳類の方が、胴体を高く上げて、腹を地面に擦らないで移動できます。

試みに、進化による体の変容を、“捻れ”という現象を糸として手繰ってみた場合、私たちヒトの身体は、正常な状態ですでに捻れに捻れているのだということが分かります。脊柱のS状湾曲は、捻れに捻れた四肢を互いにつなぎ止め、全体としてしなやかに動くために出来上がった形態と言えるでしょう。

 

進化によって創造された形態と機能は、大変エネルギー効率に優れています。直立二足歩行もその例外ではありません。捻れとその開放を繰り返すことによってエネルギーを供給する、精妙にして繊細なシステムですから、随所に取り入れた捻れという仕掛けが緩みやすい、というのが私の見解です。したがって、咬み合わせのずれ、怪我、疾患など様々な要因によって起こる身体の変容は緩んだことの結果であって、治療の目標は、緩んだバネを締めなおすがごとく捻れを再構築して、エネルギー効率の良い全体性を回復することにあると考えています。

 

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