Column

コラム

ランランラン

 今日は、私が“咬み合わせ治療のゴール”として描いている、“ヒトの姿”について、お話してみようと思います。

 

 咬み合わせという口腔内の力学システムに変化を与えることで、体全体の力学システムに好ましい影響を与えるという作業が予知性を持って行なわれるためには、咬合と全身との関連性が法則として把握されていることが大切です。咬み合わせと体の関連については、さまざまな理諭や方法が摸索されていよすが、私は、そのような方法論の手前に、もうひとつ重要なことがあると考えています。それは、“治療の全過程を通じて目標とすることができる、ヒトの本来の姿を知ること”です。

 

 健康で自分らしく生きていくために、私たちの体はどのような条件を備えていることが必要か、というような観点から人体を理解するためには、進化を踏まえて観ること、動きの中で診ること、全体を視野に入れて視ることが大切です。

 

 異種の生物との間の比較によって、構造の一般性や進化的意義などを探ろうとする学問を比較形態学といいます。その分野を通して人体を観察しますと、「現在だけをみると横一線に並んでいる分類群が、実は入れ子式に、より古い、より原始的な分頚群に含まれていることになっていることがわかります」。つまり、「現在の人の体の中にも、魚類時代に身につけた特徴からはじまって、両生類、爬虫類、哺乳類、霊長類時代に至る各時代の特徴、そして人類になってから新たに獲得した特徴がモザイクとなって畳みこまれている」のです(講座 進化4 形態学からみた進化、犬塚則久)。

 

 それではヒトの特徴は何かということになりますと、現在の人類学では、直立二足歩行がヒトの体の最大の特徴であり、現在の体の仕組みと特徴をつくり上げてきた原動力と考えられています。実際、歩行を観察しますと、直立二足歩行の中には、ヒトの歩んできた進化の道のりが組み込まれていることがわかります。もちろん、そのシステムが全て同じに働いているわけではなく、一人一人の体には、その方に起こった変容が表現されています。それらが、病的範囲に属するものか個性であるのかという区別は、ヒトに共通の構造と機能という普遍性・一般性と重ね合わせて、初めて判断がつくのです。

 

 先日、歯列矯正治療をしていた青年の治療が終わりました。口腔内からは歯列矯正で咬み合わせを整え、ハリやオステオパシー等で、正しい直立二足歩行のできる体に整えてきました。「今日で、依頼された治療を終わります」と申し上げますと、その青年は、「我ながら、健全になったな、と思います」と笑いながらおっしゃいました。「もっと自分らしく生きることを支えてくれる体になりたい」という目的で歯列矯正治療を希望してこられた方ですから、今の精悍な姿は、御白身にとっても、目標を超えた治療成果だということでした。「これからも、時々、見せにきます」と言って、お帰りになりました。

 

 私は、治療を終えた方が、遇度に治療者を頼ることなく自信をもって、人生をご白身の二本の足で、ランランランと歩んでいってくだざることが、治療のゴールのイメージです。そしてたまに、元気な姿を拝見できたら、治療者としてこれに勝る喜びはありません。

 

048-549-0190
完全予約制
ご来院の際はご予約を
診療時間
9時-13時/14時-18時
休診日
木曜・日曜・祝日