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コラム

お母さんは お嬢ちゃん似だったのですね

「街の歯医者さん」をしていると、奥様が通院なさったのをきっかけに、ご主人がみえたり、小さなお子さんの治療を通じて知り合ったお母さんが患者さんになったりと、人と人とのつながりを感じます。何もご家族に限ったことではありませんが、気心の知れた患者さんの、大切な人を治療するようなご縁に巡り合えるのは、やはり嬉しいものです。

 

これは、中学生のお嬢ちゃんをお持ちのお母さんを治療していた時のことです。ずれていた顎をなおし、それにつれて姿勢が整い、しだいに眉と眉との間に明るさがさしてきたある日のこと。診療室に入って来られたその方のお顔を見た途端、「あら、お嬢ちゃんに似ているわ」。いえいえ、お嬢ちゃんが、お母さん似だったのですね。

 

咬み合せが狂うと、顎顔面を含む頭蓋の骨群がそのつなぎ目でひずみます。そこで咬み合せを整えてひずみを解消すると、本来のその方らしい顔立ちが回復してきます。その結果、ある時は、お母さんがお嬢ちゃんに似てきたり、ある方は、ご自身の昔のお顔に似てきたりして、治療の経過に華を添えてくれます。

 

頭蓋は、全部で15種類23個の骨から成ります。それらの骨のなかで、下顎骨は最も大きな動きをすることができ、しかも自分の意志にしたがって動かすことのできる唯一の骨です。咬み合せの治療では、多くの場合、この下顎の位置を変えるので、顔の輪郭が変わります。しかし、治療による顔立ちの変化を目のあたりにすると、そこで起っている変化が、それだけでは説明しきれないという気持ちになります。

 

一般に、頭や顔というのは、硬い構造物というイメージがあるのではないでしょうか(サッカーのヘディング・シュートを思い出すまでもなく)。ところが、実際は、かなり可動性が高いのです。図1は、ヒトの顎顔面部を真横から見た時の、骨格系の動きの様子です。顎顔面の骨は、咀嚼や嚥下・発音などの機能と、相互に影響し合いながら動いていることを、矢印で示しています。なかでも咬み合せの影響は、その咬合力が歯根を通じて、直接、顎顔面の骨群のつなぎ目に影響するばかりか、下顎の動きをコントロールする周辺の筋肉にアンバランスが生じた場合には、それによっても頭蓋の骨同士のつなぎ目にひずみを生じさせます。

図2には、咬み合せと顔立ちとの関係の極端な例をあげています。成長期の咬合の不調和は、出来上がる個々の骨の形態にまで影響しますので、ダイナミックに顔立ちに影響します。しかし、このような関係は、程度の差こそあれ成長期に限ったことではありません。

咬み合せを整えて行く過程で、目立って変わる場所に鼻があります。いわゆる“鼻筋が通る”という変化です。咬み合せのバランスの悪い方では、鼻筋が曲がっていることさえありますので、そういった場合には、左右的なずれが解消されます。しかし鼻筋に現れる変化は、それだけではありません。前後的、すなわち高さにも現れます。特徴的には、鼻根(目と目の間)と、その下の硬い骨で盛り上がっている範囲か、スッキリとしてきます。咬み合せの不正は、多くの場合、脳の台座に当たる脳頭蓋底が、鼻を歪ませるような力としてのしかかるという状況を引き起こしていす。咬み合せを整えることは、その力を解放して、鼻を始めとした顔立ちの立体的な組み立てに変化を与えることです。

 

咬み合せと顔立ちのこのような関係が判ってから、私は、大きな入れ歯の治療や、咬み合せ治療の時、患者さんにお願いして、ご自分の歯が大方そろっていた時のスナップ写真をお預かりするようになりました。顔立ちからも、咬み合せはある程度わかりますので、治療の参考になるからです。お写真を拝見すると、なかには人柄が違って見えるほどの変化にみまわれている方もあり、驚かされます。そのような方が、治療の進行に伴って、ご自分の本来のお顔を取り戻してゆく過程には、体の症状が改善されてゆくのとは、また違った感動があります。あぶり出しの絵が浮かび上がってくるのを待つような気持ちで、その方のその方らしさが現れてくるのを待つプロセスは、私を咬み合せ治療に引き付ける、とっておきの楽しみのひとつです。

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