Column

コラム

お写真を拝見させてください

  「なんだか きれいになったんじゃなぁい?」親戚の集まる機会が久しぶりにあり、姉と妹から別々に同じ言葉をかけられましたと、咬み合わせ治療を終えたばかりの方が報告してくださいました。我が意を得たりというのは、こんなときのためにある言葉と思うほど、患者さんが“きれいになった”と言われるのが、私は好きです。

 

 歯科治療を通じてきれいになっていただくために、治療の組み立てに際して考慮することは色々ありますが、診療室でお目にかかるようになる前の顔写真を見せていただくのもその一つです。もちろん、どなたでもというわけではありません。治療をしていく上に、ご自分の歯があった時のお顔を知りたいなぁ、と感じたときです。

 

 それはどんなときかといいますと、まず第一は、その方の“顔立ち”が、ご自分の歯があったときと今とで随分と違うのではないか、と感じたときです。このようなときには、奥歯があったときの写真を探していただくようお願いします。

 

 顔の輪郭は、奥歯がどんな状態で噛み合っているかによって、大きく印象が変わります。例えば、顎が小さめの方の顔写真を見せていただくと、元のお顔は、顎がはって意志が強そうであったり、顔の左右がアンバランスな方が、元々は左右均等であったりします。このような場合では、歯が悪くなる度にあれこれ治療をしているうちに、何だか顔の印象が変わってしまったと、ご自身でも感じている方が多いようです。

 

 第二番目は、前歯に白い歯を何本もかぶせる時に、前歯のほとんどが既に人工物で、もともとの歯の形や歯並びのニュアンスがわからないという場合です。歯は体の一部ですから、顔の輪郭や体型、奥歯の形など、あるいはご本人の記憶から、ある程度の傾向を知ることは可能ですが、やはり、実際の歯を見るのが一番確かな情報となります、笑っているスナップなど、前歯の様子が鮮明に写っている写真を拝見できると、とても参考になります。

 

 年月は流れ、人生には様々な出来事があり、人の姿も変わっていきます。だからこそ顔の味わい深さもあるのですが、中には、お顔の変化が、歯が悪くなった結果としての容貌の変化という要素の強い方もあり、そんな方からの相談を受けますと、何とかして、その方のその方らしい顔立ちを回復させたいと、力が湧いてきます。

 

 冒頭にお話した方のご要望は、虫歯の前歯に白い歯をかぶせたいということでした。歯周病の影響で、前歯には歯と歯の間に隙間ができていました。歯を支える骨の減りが進んでいるため、歯周病の治療の後は、それぞれの歯をつなげて補強したいのですが、このままつなげたのでは、それぞれの歯が隙間の分だけ大きくなってしまいます。奥歯をささえる骨もぬかるんで歯が沈み込んで、咬み合わせの高さが減っているようです。顔立ちの変化がうかがわれました。

 

 そこで、奥歯が悪くなる前のお写真を拝見させてくださいとお願いしましたところ、お持ちくださったのは、新婚旅行のスナップ写真でした。この方のお嬢さんたちは、すでに結婚しておられ、そのまたお子さんたちも治療させていただいていますので、今から何年前のお姿でしょう。春めいた海原を背景に岩に腰かけて、ちょっとはにかんだ笑顔。ぴっちりと隙間無く並んだ前歯の連なり……。仕事柄、小さな写真でも、かなり具体的に口の中全体のイメージが湧きます。イメージが湧くと、その方のために描く治療のゴールが、より鮮明に見えてきます。咬み合わせの高さを増やし、元の顔立ちに近づくようにしよう。今よりもっと、この方らしい表情が戻るように、前歯の位置を戻し、写真のような雰囲気に歯を作ってつなげようと、治療計画がどんどん出来上がっていきます。

 

 こんな調子ですから、私の依頼を受けて、歯を作ってくださる技工士さんは、さぞ大変なことだと思います。歯の治療を通じて、その方らしい“きれい”を表現するために、一緒に仕事をしてくださっている技工さんとのやりとりを、次回にお話したいと思います。

 

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