Column

コラム

杜の都から

 何年かぶりに仙台にきました。晩秋の杜の都は寒かろうとの予想に反して、来てみたら、コートなど無ければ無いで済む程度の気候でした。ご存知の方も多いかと思いますが、仙台には青葉通り、広瀬通り、定禅寺通りという三つの並行する通りがあって、ケヤキ並木が見事です。分けても定禅寺通りでは中央分離帯にも二列植えてあり、合計四列のケヤキの大木が続く様は圧巻です。中央分離帯は散歩できるようになっているので、色づいた大木の枝と枝とが頭上で重なっている路を歩いていると、まるでシャンソンの世界に迷い込んだようで、学生時代からお気に入りのスポットでした。

 

 咬み合わせと体との関連をテーマとしている学会が、今年はここで開かれています。学会にいわゆる学会発表といわれている、会員による研究発表の他に、シンポジュームや教育講演という形で、関連のあるさまざまな分野の専門家が招かれて、講演をしてくれます。咬み合わせと体というテーマは、学問としては、まだ新しい領域である上に、関連する領域が広範囲にわたるので顎や歯に関すること以外に、姿勢との関連から、脳のこと、整体、心療内科的な領域まで、実に多彩な内容が盛り込まれています。会場の薄暗がりの中で、提示されるスライドやビデオの映像を見ながら講演を聴いていると、さまざまな領域の最先端の情報が選ばれていて、学生時代には、歯医者である自分がこんなことまで勉強するようになるとは思ってもいなかったなぁ、などと思ったりします。

 

 そんな中で、気になったことがありました。それは、医科の領域においては、咬み合わせということについて、あまりにも知られておらず、各科における診断の要素に咬み合わせの影響が含まれていないという現実です。たとえば診療内科では、顎関節症は、心理的要因によるものとされ、薬物療法や心理療法的なアプローチが試みられているのが、現状です。他の科でも、似たような状況にあります。

 

 最近、私の診療所にも、メニエル症候群との診断の下に、長く薬物療法を続けてきた方がありました。経過が思わしくなく、ある人から咬み合わせを診てもらうよう勧められたとのことで来院しました。ふらついて、運転もままならないので、奥様が付き添っておいでです。お話をうかがってから、口腔内を拝見しますと、右下の一番奥の歯(前から数えて7番目)がすでになく、そのまま何年も経っているために、咬み合っていたはずの上あごの歯が伸びだして長くなり、顎が自由に動くのを邪魔しています。これは、時として痛みをはじめとするさまざまな身体症状の原因になるパターンです。首を左右に回していただくと、左に比べて、右にはわずかしか回りません。

 

 今度は歩いていただき、戻って来るときに、左回りをお願いします。次に右回りで戻って来るようお願いしますと、予想通り、足元がふらつきます。そこで、先はどの歯の引っ掛かりをそっとり落とし、もう一度右回りを試してみましたところ、もう、ふらつきはほとんどなくなっているのでした。そこで、今までについてしまった体の癖や動きの制限を鍼で解除して差し上げると、さっぱりしたようなお顔になり、まさか咬み合わせがこんなことにまで関連しているとは思わなかったとおっしゃいました。

 

 これは、ほんの一例です。咬み合わせという領域について、医科の先生方にもっと知っていただき、連携が取れるようになったなら、もっと多くの方が、スムーズに、辛い症状から開放されるようになることは。間違いがありません。そうなるためにも、もっともっと、歯科界自身が、このことに対して共通の認識を持てるところまで研究を進めていかなければならないし、実際そのような方向に、急ピッチで研究が進んでいると感じました。

 

 学生時代、定禅寺通りのはずれに、抹茶を点て、品のよい和菓子を食べさせてくれる古い造りの店がありました。発表を終え、学会場からホテルに帰るタクシーの中で、その店は今でもまだありますかとたずねたところ、女性の運転手は、ひいきになさっている方たちを時々お連れします、とのことでした。懐かしさに、店の前に車を回してもらい、ひと時をすごしました。

 

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