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コラム

姿勢の躾について―咬み合わせ治療の立場から―

このところ、咬み合わせ治療をしている患者さんとの間で、背が伸びたという話題が続きました。

 

20代の女性の方は、歯列矯正を終わって一年ほど経った方です。先日。久しぶりに体のバランスを見る機会があり、すらりとした印象になっていましたので、そのことを指摘しましたら、「そうなんです。検診に行って測ったら、背が高くなっていたんです。視界が変わりました」とのお返事でした。

 

20代後半の男性。この方は今も歯列矯正中で、奥歯の左右のバランスが大方盤ってきたところです。何だか背が高くなったような気がしましたので、伺いましたら、「測ってはいないんですが、最近、人からよくそう言われますし、自分でも背が高くなったなと感じます]とのことでした。

 

こんな調子で、背が高くなったという話が立て続けにあったものですから、ついその話を総義歯を作り替えた患者さんにしましたら、「先生、私もそうなんです」。毎年受けている町の検診で、背が伸びていたので驚いたばかりなのだそうです。

 

みなさん。成長期は過ぎている方たちばかりですから、身長の伸びは、骨の長さの増加によるものではなく、姿勢が良くなった結果でしょう。

 

では、あらためで姿勢とは何かと考えますと……。先日、永末書店から発行された『高齢者・障害者の口腔ケアと治療』という本の、「高齢者の姿勢・整容行動」という章を執筆担当させていただきましたが、原稿を書くにあたって、整形外科では姿勢はどのように位置付けられているのか知りたくなり、知り合いの整形外科の先生に伺いましたら、たちどころに学会誌から姿勢に関する論文を調べ、全てコピーして下さいました。それらを読んでみると、整形外科では、姿勢は主に背骨の湾曲状態をもって分類・評価されており。加齢による変化、疾患による変化の両面から研究されていました。

 

その中で、姿勢研究所の鈴木信正氏らのグループは、3才から89才までの男女6889名を対象に行なった疫学的な姿勢分析から、“60才以上の高齢でも活発に仕事に従事している人々は、ほぼ若い時の姿勢を保ち、スポーツ等を楽しんでいる。一方、著名な丸背を呈した人は日常あまり活動性がない人に多いといケ結論を得た。人生の終期を活発に楽しむためには、バランスの良い姿勢に意味があると考え、そのためには、姿勢の形成期にある小児の指導、しつけが大切である”と述べています。

 

このことがあってから、私は、歯列矯正治療をする時に、咬み合わせと姿勢、とくに上半身との関係を知る情報のーつとして、腰掛けた状態でお尻にかかっている左右の圧力分担を調べるようになりました。すると驚くなかれ、咬み合わせに問題がある場合、永久歯が生え始めて乳歯がまだ残っている年令で、すでに、寛骨坐骨結節の左右バランスが崩れていることが珍しくないことがわかりました。

 

教室で長く座っている時のような習慣性の姿勢で、測定板に腰掛けてもらい、左右の均等性が確認されても、安心するのは早いのです。「姿勢を正してみて」と指示を出すと、さっきまで可愛くそろっていた左右の圧力分布に、大小の差が出て、上体が力学的に不安定になってしまう子も見受けられます。この子に、いくら姿勢良くと注意して躾けようとしても、良い姿勢を長く維持するのは苦しくて無理でしょう。

 

左右のお尻にほぼ均等に上体を預けた時、背骨のカーブも、力学的に無駄のない安定した状態であってこそ、躾として要求された姿勢が、その子白身の実感としても、心身が整ってくる心地よい姿勢になるのだと思います。

 

乳歯が生え変わるころから、すでに、人生の後半の明暗がひそかに準備されていると考えると、宿命論的な悲壮感か湧いてこないでもありませんが、大人になってからでさえ姿勢は修正可能なのですから、気付いた時から、前向きに取り組もうではありませんか。

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