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コラム

咬み合わせと足の裏の遠くて近い関係

歯の咬み合わせと足の裏が関連しているとお話しすると、ほとんどの方がビックリなさいます。体のてっぺん近くにある“歯”と、地面に接して身体を支えている“足の裏”との関連は、遠く離れているために、イメージとしても一直線には繋がりにくいようです。

 

図(I)は、ある患者さんが、自然立位、つまり足踏みをしてそのまま楽な姿勢で立った時に足の裏にかかった圧力の分布状態です。“ボディ・バランスという機械が、特殊なゴム・シートと画像処理技術による足底圧分布測定システムによって、足底部にかかる圧力の差を色の違いとして表します。カラーでお見せできないのが残念ですが、足の裏のどの部分にどれだけの圧力がかかっているかを、圧の高い順に赤から黄色・緑・青・紫と、カラフルにパソコンにディスプレイします。また、約30秒を64コマに分けて継続したデーターが採れるので、重心の、動揺を動的に観察・記録することが出来ます。ゆらゆらと重心の定まらない方や、鋳型に嵌め込まれでもしたようにアンバランスなままの状態で重心動揺の少ない方など、一瞬の画像だけでは表せない経時的な情報が得られるので、咬み合わせと全身の関連を考察する上に、大いに役立ってくれます。図(I)の患者さんでは、ほとんど重心動揺はありませんでした。

 

図(Ⅱ)は、同じ方の、やはり自然立位の足底圧分布です。足の外形は同じでも、左右のバランス・前後の体重のかかり方に、大きな違いが見られます。これをご覧になって、[えっ、これが同じ人のなの? なぜ、こんなに様子が違うの?]と感じていただけたら、臨床家としてちょっと自慢したい気持ちになります。

 

この方は、舌の左脇が痛くてたまらないと来院なさいました。口腔内を診ると、咬み合わせの狂いにその原因があると思われましたので、咬み合わせの良し悪しを左右する最も大きな要因である顎位を整え、痛みから開放した時のデーターです。スプリントというプラスチック製の装置を下顎の歯列に嵌めたまま何歩か歩いていただいて、歩行状態を観察し歩行状態が整うようにスプリントを削るなどして前後左右・高さのバランスを修正しました。図Ⅱは、調整を済ませた後の足底圧分布の状態です。口の中の顎位を変えると、足の裏ではこんな風に、体重を支えている場所の変化が、時を経ずして起こっています。はじめの状態と比べて、左右の対称性が回復し、さらに、体重を支える場所が、足底の前方部にもあらわれています。体重の支え方が変わっているということは、いうまでもなく体全体の力学的バランス、垂心が変化したことを意味します。

 

力学的バランスが整っている場合、足底圧は、カカトのほか拇指丘と呼ばれる第1指の付け根にも集中しています。これらの場所は、ヒトの歩行の特徴のひとつである“あおり”と呼ばれる足の動きを足の裏から観察した時に、体重を支えるポイントとなる場所に対応しています。ですから、足底圧分布のバランスが良いということは、“あおり”が整い、歩行に伴う体重移動をサポートする条件として有利であると考えて良いでしょう。

 

自然立位という静的な状態で重心のバランスが良いことは、直立二足歩行という動的な条件下において、安定した効率の良い重心の移動が行われることにつながる大変重要な条件です。

 

パソコンにディスプレイされる足底圧分布というカラフルなデーターは、患者さんと共有できるひとつの目安であり、歯の咬み合わせと足の裏をつなぐことは、歩行を再構築することを目標とする私の臨床にとって、全身のダイナミズムへと想像力をめぐらすための“のぞき窓”のひとつとなっています。

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